昭和三年、信濃川上流の山間集落に小作人の倅として育った朝田竜吉は、十日町の高野家に丁稚奉公することになった。十七歳の時だった。気苦労の多い丁稚生活の中で、竜吉の安らぎは、高野家の一人娘で女学校三年の雪絵の美しい存在だった。ある日、雪絵は母が十三年前、番頭と駆落ちしたということを知った。問いつめても黙っている父に業を煮やした雪絵は、衝動的に竜吉を土蔵に引き入れ激しいキスを交わした。番頭の辰之助の進言で、雪絵は長岡の女学校に転校することになった。雪絵は出発前に自分のすべてを竜吉に与えようとして二人は土蔵に入った、が、一足先に土蔵に入った竜吉は、中で雪絵の父と辰之助が男同志で抱き合っている姿を見た。雪絵が入ろうとするのを止めた竜吉は、雪絵には口が裂けても、このことは言うまいと誓うのだった。昭和五年、転校した雪絵は、情熱的な左翼シンパの国語教師・沖島雄介に急...
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