その日、小樽の北見家は二重の喜びにわいた。北洋で遭難した長男太一郎が救助されて戻ったのと、東京から大学生の次男洋二がひょっこり帰って来たからだ。だが洋二の心は、度重なるストや学校閉鎖で暗かった。太一郎に叱咤され、学問や人生に疑問を抱く洋二は、ますます悩んだ。そんな時に会ったのが、幼な友だちの克之だった。捕鯨船で鍛えあげた克之の肌には、人生に対する自信が満ちあふれていた。洋二は早速同じ村に住む捕鯨砲手大垣に南氷洋行きを頼んだ。日本水産第二図南丸船団が神戸港を出航しためは、十一月上旬だった。出航を前に、克之は生みの母節子に会った。節子は、生活苦のため捨てたわが子の成長に感激、克之もまた「誕生したことが、僕にとっては意義がある」と働くことのよろこびを洋二に語った。洋二にとって、整備作業は厳しいものだった。船では一人の過失が、全員のそして、家族にまで災難を及...
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