大坂城は今日も落陽に美しく映えていた。しかし、城と運命をともにする当主秀頼や淀君らは、もはや昔の夢を追うことはできなかった。徳川秀忠は豊臣家への圧力を強化してきたのだ。京都方広寺の大仏開眼供養の儀式は、両家を相争うべき宿命の谷に追いこんだ。--関ケ原の戦いで一家を失った無法者、鬼の茂兵衛が大坂にやってきた。彼は動乱まで利用しようとする大坂商人の根性に腹が立った。茂兵衛は乳兄弟の隼人と連れの女阿伊を逃がすために山伏に捕えられ、橋に宙吊りにきれた。霧隠才蔵と名のる忍者が彼を救った。才蔵が茂兵衛の綱を切り落すと、小舟に乗った阿伊が救い上げた。小舟が行きついた先は、秀吉に大恩を受けた豪商、伊丹屋道幾の密室だった。やがて茂兵衛は、阿伊の案内で加藤肥後守清正の娘、小笛と会った。小笛は、千姫を奪うことを茂兵衛に命じた。千姫を奪うこと以外に両家の争いをさける方法はない。しかし、茂兵衛は失敗した。城中では、淀君が徳川と一戦を交えることを決意した。折から堺に入港したポルトガル船の積んでいる鉄砲を徳川方に渡してはならなかった。才蔵と茂兵衛は人足に変装して道幾とともにポルトガル船に鉄砲を買いとるべき金を運んでいた。が、道幾は鉄砲を値のいい徳川方にまた売りしようとしていた。船を脱出した茂兵衛は、道幾の屋敷で、短刀で道幾を倒した小笛を救い出した。小笛は道幾の野心を見抜いていたのだ。豊臣・徳川の戦いは始まった。鉄砲を取り返した才蔵に小笛を託すと、茂兵衛はその鉄砲を荷馬車六台に積んで大坂城へ向った。戦いは時すでに豊臣方に不利であった。茂兵衛の運んだ鉄砲は一時の時をかせいだ。才蔵に守られた小笛は、両家の和を願った。元和元年正月、和議は成立した。茂兵衛は功により二百石の直参に召抱えの墨附を受けた。しかし、お互いに生きていたら橋の上で会おうと約束した阿伊の姿を見つけると、その墨附を破いて捨てた。茂兵衛は「田舎へ行こう」と言った。阿伊もうなずいた。茂兵衛にとっても阿伊にとっても、大坂城だけが夢であり希望であったのだ。
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