場末の盛り場、ガード下に診療所を開いている杉浦健吉は、足を洗うことを条件にチンピラの傷の手当をしてやるような男であった。ある日、チンピラ・スリの三太が、ニュー・フェースの試験を受けるため戸籍を貸してくれとやって来た。苦笑しながらもこの申出を承知、区役所へ戸籍を取りに行った健吉は、自分の戸籍が抹殺されているのを知った。しかも届人は彼が長い間捜していた弟の忠夫となっていた……。その足で死亡診断書を書いた医者を訪れた健吉は死体処理の立会人として背の高いガッチリした男、にやけたやくざ風の男、背が低くて神経質の男、それに気違い女がいたことを知らされた。それともう一人、黒い男が……。また忠夫が銀座でキャバレーを開いていることも。「誰か一人、人が殺されている」健吉はこう叫ぶと、自分の墓のある伊豆へ出かけていった。彼はそこで、自分の墓に花をささげる美しい女を見た。また叔父の家をついでいる執事の加納--背が低くて神経質な男、弁護士の赤沼--背が高くてガッチリした身体の男にめぐりあった。健吉はそこで顔に大やけどをした弟が週一度、土曜日に現われるというカサブランカへ行き「ああ、忠夫さん、エレベーターが危いよ」という気違い女にあった。また支配人の土井がキザッポイ髭をつけた男であることも知った。そして墓場であった女、弟の女という真理を発見、事件は一きょに解決するかに見えたが……。健吉を助けていた三太は、加納殺しの罪をなすりつけられた。健吉も真理の所で弟と名乗る男を追いつめたが、真理のピストルにさえぎられた。単身、カサブランカに乗り込んだ健吉は、弟と名乗る男を追いつめ、エレベーター穴に追いこんだ。意外、それは伊豆の寺の住職卓然だった。弟は卓然に殺されていたのだ。気違い女は弟の愛人だったのだ。恋のサヤ当からこの事実をかくしていた真理は健吉の名を呼びながら毒をあおっていた。
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