(東京篇)川北小六は新聞広告からある邸の離れに同居するようになった。その家は母一人娘一人の静かな生活だったが、小六はその令嬢照子と相愛の仲になった。小六は大阪の川北組のせがれで、父親の佐吉は同じ大阪で指折りの新興成金小牧雄造と、政治的の話合いで、小六に想いをよせうるさくつきまとう娘蘭子のために、頃句を結婚させる親同志の約束が出来ていた。小六はまたその縁談をきらって東京に逃げてきた訳だったが佐吉は、破産一歩手前にある川北組のためにも、結婚を承知してくれと頼むのだった。今百五十万円の金を必要とする川北組のために照子は邸を抵当に、独断で運悪く小六を蘭子の恋敵とねたむ小牧商事の支配人津川に頼んだため、怪しげな契約書を手交わしたが、小六に見破られた。小六は小切手を返そうと家にとって返した時は、いまではならず者になっている照子の実父東吉に盗み去られていた。それが...
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