港の傍らの遊園地、空中観覧車の鉄骨の下で薄闇のせまる頃、拳銃のうち合いがあった。港の無頼漢・久松組組長一味と対峙したのは村田組組長村田恭輔とその乾分達だった。街角に小さな花屋があった。十七歳になる和子は両親を失い叔父秋本真吉を手伝って花と共にくらす清純な少女だった。花屋の開店二周年記念の日、和子は十七人目の客を“マスコットのお客様”としてサービスすることを考えついた。そしてその十七人目の客とは……撃ち合いで傷つきパトカーの眼を逃れてとびこんで来た村田だった。和子の胸には村田の姿が強く焼付けられた。村田にはバーをやらせている情婦マリエがいたが、村田も自分を信じて疑おうとしない和子の無垢な姿を忘れようとはしなかった。村田が幼い時彼の父は無実の罪で獄死した。以来法を頼らず力だけを頼んで生きて来た無頼漢村田にとって、いわば和子は神のような存在だった。村田は港の暗黒街の大ボス伊勢に会った。伊勢はピンハネをする港湾の井原組に反抗して立ち上った植村たち沖仲仕の集会を暴力で破れと言葉巧みに村田をそそのかした。伊勢の言葉に、沖仲仕こそ港を荒らす一味と感違いした村田は伊勢の命令を遂行した。晴れた日、村田は和子と江ノ島にドライブした。村田にとって和子の心はますます美しいものだった。植村は村田に伊勢から離れることを再三すすめた。伊勢一派は植村殺害を企てた。そして植村は死んだ。だが植村の眼はウィンチマンに合図した伊勢を見た。村田は伊勢と対決した。しかし和子を思うと村田には殺せなかった。クリスマス・イブ、伊勢一派に追われながら村田は教会に和子をさがした。その夜、村田は一味の兇弾に倒れ、教会の路上で息絶えた。クリスマスの朝、山のような贈り物に囲まれた和子の前を死体運搬車が通った。それが初めて人間の尊さを知り、これから生きようとした時に散った村田を運ぶ車だとは、和子はむろん知らなかった。
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