のんべ安、喧嘩安という異名で通っている中山安兵衛は、甚兵衛長屋に住んで放蕩無頼な生活を送っていた。同じ長屋の娘軽業師お鶴はそんな安兵衛にいじらしい娘心を寄せていたが、実母お民の借金のかたに深川の芸者にならねばならぬ羽目になっていた。相談を持ちかけられた安兵衛、もとよりそんな大金は無い。獲物を見つけに街へ出掛けたが、喧嘩安が有名になり過ぎて、どんな大喧嘩も安兵衛の姿を見ると、逃げてしまう有様。一先ずお鶴の働いている牡丹のお滝の楽屋裏へ出掛けて、お滝と共にお鶴の前後策を講じる。その留守安兵衛の伯父菅野六野右衛門の仲間佐次郎が六郎右衛門と村上兄弟の決闘の手紙を届けるが、帰って来た安兵衛は、また諌言と思って読もうとはしない。飲んで、眠って、目覚めて、読んで南無三一大事。大刀掴んで酒を一あふり、駈け出す先は高田の馬場。既に伯父は無念の最期を遂げた後だったが、見物中の武家娘から差し出された緋のしごきを襷に、勿ち十八人を斬り倒し、即座に仇討をなしとげた。それからというもの、甚兵衛長屋は安兵衛召抱えの大名の使者で超満員。なかでも先にしごきを貸した浅野内匠頭の家臣堀部弥兵衛の強談判には安兵衛閉口するが、弥兵衛の娘幸の父想いや内匠頭の家来想いに負け、仕度金をお鶴に渡すと、皆に送られながら長屋を出て行った。
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